ペジャール「くるみ割り人形」
ベジャールファンには必見 |
クラシックバレエの『くるみ』を一度も見たことのない方にはお勧めできませんが、ある程度バレエに詳しくなってきてベジャール、エック、フォーサイスらの作品を観る余裕がでてきた方、現代ものも好きだけどやっぱりクラシックもいいなという方は、ぜひ観ていただきたい作品です。
ベジャール作品にはあまりカラフルな舞台はありませんが、この作品はプティパ版に負けないくらい煌びやかです。また『くるみ』のエッセンス・・・幸福はどこにあるのか?というテーマからも逸脱していません。ベジャール自身の幸せの記憶の告白であり、その純粋な思いに、理屈ぬきに心打たれます。
また、小林十市さんの切れ味よい演技も堪能できます。観終わると、とても「得をした」気分になります。
今は亡き母へ捧ぐ。 |
モーリス・ベジャールが、幼い頃に亡くなった母への想いを込めた愛情溢れる作品です。母への想いが宝石の様にあちこちに散りばめられていて、哀愁漂うアコーディオンの演奏も素晴らしく、涙がこぼれてしまいました。「ヴィーナス誕生」のポーズをモチーフに、母の彫刻が舞台に置かれていますが、この仕掛けが面白いです。オーソドックスな「くるみ割り人形」から一歩先へ行きたい方々へ。
これはベジャールの原点!! |
とにかく楽しい作品です。次から次へと魔法を見せられているようなファンタジックな作品です。これは幼いときに母と別れたベジャール自身の自伝的作品ではありますが、暗くも重くも難しいこともなく、オモチャ箱のような驚きと楽しさの連続に夢中になりました。ベジャールの言葉どおり、「万華鏡を覗くような極彩色のきらめきと楽しさに溢れた舞台」です!
古典の『くるみ割り人形』では、クララとくるみ割り人形の夢の旅がストーリーの骨組みですが、ベジャールの『くるみ割り人形』は、少年と幼いときに別れた大好きな母との心の旅が描かれています。『くるみ〜』を観ることで季節感を感じたい方には古典をお勧めしますが、ここまで純粋に楽しめるバレエも珍しいと思います。一見コメディタッチであるのに、どこか心に切なさを残し、温かな気持ちで観終わることができるでしょう。
この『くるみ割り人形』は、ベジャールの作品の特徴である、エロティシズムの表現や祭儀性、政治性や社会性、そして哲学性からは無縁の、エンターテイメント性を重視した例外的作品のように見えますが、私には、むしろこれはベジャール自身の原点であるように思えます。政治・社会性は別にして、それ以外は見事に融合されているように思われます。この作品は、このDVDに添えられている案内文を借りるなら、「バレエを愛するすべての人にむけた、ベジャールからのプレゼント」ですが、むしろ”舞台”を愛するすべての人に送りたいベジャールのクリスマスプレゼントかもしれません。