ニューヨーク・シティ・バレエ
バランシン / ニューヨーク・シティ・バレエ 「ツィガーヌ」「ストラヴィンスキー・ヴァイオリン・コンチェルト」他
???帝政ロシアに生まれ、革命後渡米し、アメリカのバレエの育ての親となった二十世紀最大の振付家の一人ジョージ・バランシン(1904−1983)自身が振付した貴重なTV番組(1977年収録)のDVD化。冒頭の「ツィガーヌ」や「ジュエルズ〜ダイヤモンド」で活躍するスザンヌ・ファレルやピーター・マーティンスの往時の至芸を堪能できるのが嬉しい。ここに特定のストーリーはない。抽象でありながら、バランシンの振付が夢のように美しいのはなぜだろうと考えさせずにはおかない映像である。王子と姫のお約束的な世界に縛られずに、男女の愛のロマンスを暗示しながら、音楽そのものの美しさに鋭敏に舞踊が寄り添っているからだろうか? ヒンデミットの「4つの気質」やストラヴィンスキーの「ヴァイオリン・コンチェルト」など、曲だけではさほどの人気作ではないものが、舞踊の力によってこれだけ高められているのは、バランシンが極めてすぐれた音楽の聴き手であることの証明だろう。モーツァルトの「ディヴェルティメント15番」や「ジュエルズ」など、音楽の魅力は倍加され、観る者を陶然たる境地に誘わずにはおかない。クラシカルな優雅さと洗練の世界に酔わせてくれる、手元にいつまでも置いておきたい宝物のような映像である。解説も充実している。(林田直樹)