パリ・オペラ座バレエ - ロミオとジュリエット
ヌレエフの振り付け |
パリ・オペラ座の優れたダンサーたちが豪華絢爛な舞台装置と衣装で、迫力あるダンスを繰り広げる。パリ・オペラ座好きにはたまらない作品であろう。
私がこのDVDを購入した一番の理由は、何よりも主役の二人(ルディエール/ルグリ)のダンスが楽しめることであり、期待にたがわず芸術性の極めて高い踊りを披露してくれている。特にルディエールの少女のもつ感受性やロミオの死に直面した際の絶望感を表現しきるダンスには、彼女の芸術家としての力量を感じさせる。ルグリとの相性もよく、全体的に優れた舞台と誰もが思うに違いない。
がしかし、私は個人的にヌレエフの振付が好きになれない。はっきり言って嫌いである。彼は自分が踊れたせいもあるのだろうが、余計なステップや技術を盛り込みすぎるのだ。多くのダンサーがヌレエフの振付はチャレンジだと言っていて、踊る側にとっては相当の技量を必要とされる振付なのだろうが、観る側にとっても非常に疲れる作品なのである。ステップが細かく、複雑であるがゆえに緊張が高まるが余裕が感じられないし、またちっとも美しくないのである。音楽との調和が取れていないと感じる場面も多々ある。
ダンサーと舞台そのものは星5つなのだが、振付が星1つ、総合的に星3つとなってしまった。
死の香りが漂うヌレエフ版「ロミオとジュリエット」 |
まず、導入部から、黒く不気味な4人組が登場して舞台が始まると、その後、埋葬のため死体を運ぶ僧の行列が登場し、これから始まる「ロミオとジュリエット」が甘く切ない悲恋ではなく、死の影が付きまとう物語であること暗示します。この死のイメージは、死神やドクロなどのいう形で何度も繰り返され、低い地鳴りのようにこのバレエを覆っています。ロミオとジュリエットの悲劇を強調しようとしていたのか、それとも、もっと根源的な人間の愚かさを強調しようとしていたのか、ヌレエフの意図は良く分かりませんが、良くも悪くも、死がこのバレエの方向性を決定付けています。
バレエとしては、ヌレエフお得意の細かなステップがテンコ盛りで、物語すべてをダンスで表現しようとしているかのようです。また、舞台装置や衣装も、華やかでかつ重厚なもので、テーマとダンスと共に観るものを圧倒し、感覚としては、全幕物バレエの倍ぐらいの密度があるように思われます。そのため、観る側にもそれなりの覚悟を強いられるバレエです。とにかく迫力のある舞台です。
【出演】
ロミオ:マニュエル・ルグリ
ジュリエット:モニク・ルディエール
マーキューシオ:リオネル・ドラノエ
ティボルト:シャルル・ジュド
ベンヴォーリオ:ウィルフリード・ロモリ
出演者については、ルグリとルディエールに尽きるでしょう。どちらもエトワールに恥じない舞台です。ルディエールが退団した今となっては生の舞台は見られないでしょうから、それだけでも貴重な映像です。
あと、ケネス・マクミラン版のフェリの演じた初々しい情感溢れる「ロミオとジュリエット」を観られた方もおられると思います。個人的には、マクミラン版の方が「ロミオとジュリエット」という原作を活かしていると思います。ただ、バレエの迫力という点では、間違いなく、このヌレエフ版の方が上だと思います。
色々書きましたが、とにかく値段も安いですし、購入して損はないソフトです!